祝福のディープインパクト

ディープインパクトの嫌いなところ。それはあれだけの応援を裏切ってさっさと引退した冷静さだ。51億が一瞬でゼロになる可能性を考えれば数億円のためにわざわざ苦労することは馬鹿げてる。知らないうちに日本競馬史上最強という称号もすでに得ていた。もう走っても貰えるものが何も無い。競馬は良くも悪くもお金がすべて。それもわかる。でも結局ディープインパクトは愛ゆえの手放しの評価を踏み台に、愛を札束に変えてどこかへ走り去ってしまった。
同世代との戦いであるクラシック戦線は野球で言ったら甲子園みたいなもので、いくら圧倒的でもそれだけで大威張りはできない。実際ディープインパクト古馬に混じった有馬記念ハーツクライに敗れた。4歳になって天皇賞春でリンカーンを撃破。宝塚記念ナリタセンチュリーを倒し、ついに天下を統一したということになった。日本最強となりその責任を果たすために凱旋門賞に挑戦したものの、後ろから差され3着というショッキングな結果に終わった。しかも禁止薬物で失格という大事件まで巻き起こした。有馬記念が凡戦と評判なので、乱暴に言えばジャパンCドリームパスポートを倒したのが最初で最後の勲章だったと言えなくもない。でも、ディープインパクトは51億円。キングカメハメハの21億、エルコンドルパサーの18億を大きく上回るこのお値段に競馬関係者の愛を感じずにいられない。もう誰も覚えていないと思うのだけど、ちょっと前にテイエムオペラオーというアホみたいに勝ちまくった馬がいた。オペラオーはディープインパクトとは違って勝っても勝ってもなかなかその実力を認められなかった。シンジケートも組まれなかった。要するにどれだけディープインパクトが愛されているかということだ。
薬物問題が持ち上がったとき、「一般でない競馬ファン」の人々からディープインパクトは全力で擁護された。あのとき、現時点で汚点なんて!!とか言ってた人たちがその後も特に考えを変えなかったりダンマリだったりしたことはいまではとてもいい思い出です。汚点発言によって「一般のファン」が離れるとか言われてた気がするけど、ジャパンC有馬記念で「またドーピングかよー」とか言う人どこかにいたんでしょうか。その線で言えば、ディープインパクトが引退することこそ、直接的な競馬離れの危険があると思うのだが。もっともらしいことを適当にでっちあげて騒いでるわりに、実際はなにも心配なんてしてないんじゃないかな彼らは。「一般の競馬ファン」なんて言っちゃう「違いのわかる競馬ファン」も実は同じようにディープインパクトを盲目的に愛してたってわけ。
本当にパーフェクトなものが評価されるのは当たり前のことで、そうでないものが集める人気にこそ本当の愛があったりする。もともとはディープインパクトもレース前半のあぶなっかしさと4角からの強烈な追い込みがみんなを魅了してたんじゃないかな。全勝とか最強とかマスコミとかJRAとかたぶんあんまり関係無い。そんなものがなくたってディープインパクトはきっと人々の記憶に強く残ったと思う。しかし、そういう大いなる愛(または謎)の力があったからこそ、サイレンススズカブロードアピールクロフネなどと違って競馬を知らない人にまでディープインパクトの凄さは認められたのだ。別に批判されることじゃない。卒業することが偉くなったということだみたいな風潮なんて大嫌いだ。