騎手たちに事情はある

昨日からの続きです。あんまり書くとネタバレになるかもしれないけど、松岡の話とか面白いところは触れないのでご安心を笑。
この本の冒頭は谷中が引退するときの話なんですけど、トウショウギアで3着に食い込んだレースのあとしばらく足の感覚が無くなって歩けなくなり、以前から事情を知っていた池上師に足がマトモなら勝ってたかもしれないなと言われ引退することになったそうです。足を痛めた柔道家と違って騎手というのはベストを尽くせないと期待して賭けてくれた人たちを裏切ることになる。騎手の場合はプロだからこそ万全でないのならファンや馬に迷惑をかけないために休むべきだと思うのに、それがあっさりと書かれているところが興味深い。なんにしても騎手が常に全力投球であるとは限らないということだ。
次に、谷中は自分のことを崖っぷちジョッキーとか負け組の騎手と言っていて、中堅以下の騎手は厳しい状況であるとかギリギリの生活に陥って時には借金をすることもみたいなことが書かれている。さらに挨拶やお礼回りの様子が繰り返し出てきたり、意見の対立によってホサれることも昔はよくあったと書いてある。人間関係を重んじる競馬サークルが古きよき村社会であり、騎手は腕だけで食っていけないということがうっすらと示されている。実のところ競馬に八百長がありえる理由が、騎手はあらゆる意味で一生面倒を見てもらう競馬サークルに逆らうことが容易ではないということであるわけだから、このあたりの話は見逃せない。
谷中のパーソナリティに注目すると、例えばリーディング上位の騎手をひとまとめにしてみんな実力者だと見ているようである。馬券を買うわれわれは必ずしもリーディング上位が上手い騎手だとは思っていない。小島太の名前を挙げてかばっているのは象徴的だと思う笑。さらには、ディープインパクトに対する評価がとてつもなく高い。菊花賞で本命を打たなかった記者に掴みかかってスターホース冷や水をかけるなと怒鳴りつけたらしい。まあつまり結果至上主義で、物事をそのまま受け入れるような素直な感覚の持ち主なのだと思われます。だとすると、強い馬がコロっと負けるのを見ても、たまたま調子が悪かったとかそこまで力を付けていなかっただけだと解釈して済ませてしまうのではないか*1。または乗馬経験もないようないいかげんな予想家が勝手に人気にしたのだとか言うかもしれない。では、そんな谷中がイングランディーレ天皇賞春をどのように評価したかというと一流ジョッキーたちが揃って最低のミスをしたレースだと言うのである。つづく。

*1:実際にそういうことも言っている